About
プロジェクト概要
情報的健康の実現を目指して
Information Health
情報的健康とは
「情報的健康(Informational Health)」とは、情報空間で各人の希求する「健康」が満たされた状態を指します。様々な情報のバランスのよい摂取、偽誤情報等に対する「免疫」の獲得、そして自らの情報環境を自律的に選択できる状態の実現を目指す概念です。
WHOは健康を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態」と定義しています。私たちは、この定義に「情報的(Informational)」という観点を加え、Physical Health・Mental Health・Social Healthに並ぶ新たな健康概念としてInformational Healthを提唱しています。
情報的健康が目指すもの
- -個人が自己の情報環境に関して望む価値(多様性・信頼性・快適性等)を実現できる状態
- -情報空間に関わる全てのプレイヤー(プラットフォーム事業者・メディア・通信事業者・広告事業者・ユーザー・政府)の協働
- -情報空間・言論空間そのものを扱う新しい学問分野の確立
Background
現代情報空間の現状とリスク
現代の情報空間は、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達・交流を確保するための重要なインフラです。しかし、その情報空間は「アテンション・エコノミー(関心経済)」と呼ばれるビジネスモデルに支配されており、深刻な社会リスクが生じています。
情報空間における社会リスク
- 偽誤情報の拡散・増幅
- 社会的分断・誹謗中傷・炎上
- 認知戦・プロパガンダ
- フィルターバブル・エコーチェンバー
アテンション・エコノミーの問題構造
- AIによるプロファイリングとパーソナライズ推薦
- 「刺激(レコメンド)=反射(クリック)」の広告空間
- 中毒的なUI/UXによる精神的健康への影響
- ナッシュ均衡による自発的変容の困難
プラットフォーマーとユーザー双方にとってメリットがある構造のため、ゲーム理論におけるナッシュ均衡が形成されており、現状を変えるインセンティブがどちらにも存在しません。個々のプレイヤーの自発的な行動変容には期待できず、総合的な対応策が必要です。
Analogy
食と健康のアナロジー
私たちは「食育」とのアナロジーにより、情報的健康の実現を目指しています。飽食の時代に健康的な食事が求められるように、情報爆発の時代には健康的な情報摂取が求められます。
飽食の時代
- 短期的最適解:食べたいものを食べる
- 長期的な健康維持には短期的な欲望に打ち勝つ必要
- 健康的な食生活の知識と支援
- 健康診断による状態把握
情報爆発の時代
- 短期的最適解:好みの情報のみを摂取
- 健全な言論空間の実現には短期的な欲望に打ち勝つ必要
- 情報摂取の在り方の知識と支援
- 情報環境の状態を知るための社会システム
ビタミンやカロリーという概念を知らずに肉体的健康を維持することが難しいように、情報空間においても、自分が置かれている情報環境や日々摂取している情報の性質を認識することが、理想の情報行動への第一歩です。
Research
研究アプローチ
本プロジェクトでは、偽誤情報や認知戦など深刻な問題を抱える現代情報空間の健全な在り方を模索し、 ユーザーが希求する情報環境の実現に向けた支援手法及び評価方法を構想・確立するため、 以下の3つのテーマで研究を進めています。
理論的基盤構築
情報的健康のモデルケースの模索と評価指標の開発
人々がどのような情報環境を希求するのかをモデルケースとして類型化し、情報的健康の状態を定量的に評価するための指標を開発します。
ミクロ-マクロの視点から情報接触の多様性を連続的に評価
推薦システムの影響をどの程度受けているかを指標化
多様な視点からエコーチェンバーの影響を評価
情報発信者やコンテンツの信頼性・論調を定量化
システム実装
情報的健康実現を支援するシステムの開発
評価指標に基づいた「情報ドックポータルサイト」や「メタ情報提供アプリ」を設計・実装し、ユーザーの行動変容を促します。
過去の情報行動から各種指標を提示し、情報的健康への適合度を診断
情報発信者の信頼性やコンテンツのトーンを可視化して提示
多様なスタンスを持つLLMエージェントによる情報の多角的理解の支援
コンテンツの「ジャンク度」推定や閲覧パターンの可視化
社会実装
情報的健康の社会実装にむけた理論的基盤研究とその実践
アテンション・エコノミー脱却に向けたミドルウェア理論の実証と社会実装の検討を行い、政策提言や法制度の整備に貢献します。
コンテンツのモデレーション権限の外部化・分散化の検討
各省庁及び国際機関への提言活動の実施
技術が情報的健康に与える影響の実証的研究
食育の成功モデルを参考にした情報リテラシーの普及
Implementation
情報的健康の実装に向けて
1. 教育・リテラシー
情報空間の性質を理解し、エコーチェンバーやフィルターバブルの存在を知ることで、自分自身で情報接触を選択できるようになることを目指します。
2. コンテンツ・カテゴリーの公表(情報成分表示)
食品の成分表示のように、情報コンテンツの特性を可視化し、ユーザーが情報の性質を理解した上で選択できる環境を整備します。
3. 情報ドックの提供
健康診断のように、自分の情報摂取状況を定期的にチェックし、偏りを認識できるシステムを構築します。
4. デジタル・ダイエットの提供
過剰な情報摂取を抑制し、バランスの取れた情報環境を実現するためのツールや方法論を提供します。
5. アテンション・エコノミーに代わる経済構造の模索
注目を奪い合うビジネスモデルに代わる、健全な情報環境を促進する新たな経済構造の研究を行います。
Vision
新しい学問の潮流
本プロジェクトは、単なる技術開発にとどまらず、情報空間・言論空間そのものを扱う新しい学問分野の基盤を構築することを目指しています。
新しい「健康」の定義
WHO憲章による健康の定義に「情報的」な観点を加えることで、 新しい「健康」へのアプローチとして科学技術の潮流やビジネスの創出を目指します。
学際的研究領域の開拓
情報通信、コミュニケーション学、情報工学、計算社会科学等、 多くの学術分野を巻き込んだ新しい学問分野の形成を目指します。
健全な科学は健全な言論空間に宿ります。偽科学の蔓延や反知性的言論、それによる社会分断を防ぎ、適切な科学コミュニケーションを実現するためにも、情報空間の健全性の確保は科学技術の発展に必要不可欠です。